“カジュアル化”で盛況な写真スタジオ、デジタル普及してもなお「紙のアルバムに残したい」家族の想い
2022-06-20 eltha
「お誕生日は可愛い写真を」スマホ普及で“写真慣れ”した子どもたちの心理
「お子さまを連れて写真館を訪れるのは、親御さんにとってはやはりご負担も大きいはず。なるべくアクセスしやすく、かつ気軽に訪れられる場所に、という発想で店舗展開をしてきました」(スタジオアリス 店舗運営統括部・古橋早苗さん、以下同)
店舗の様子が外から見えるオープンで明るい空間もスタジオアリスの特徴の1つ。かつて“街の写真館”と言えば、重厚かつかしこまった雰囲気で、大きなカメラや眩しい照明も含めて子どもにとっては「ちょっと怖い場所」だった。
しかし昨今はスマホの普及で、子どもも写真を撮られることが日常になっている。
「30年前に比べてお子さまの写真スタジオに対する抵抗感はまったくなくなったように感じます。むしろお子さまのほうから『お誕生日はスタジオアリスに行きたい』とおっしゃってくれるという声も。日常の写真はいつでも撮れるけど、『(貸衣装として用意している)ディズニーのお姫さまになって可愛い写真を撮ってもらえる日』などといったウキウキ感も含めて、スタジオアリスでの撮影を楽しんでいただけているようです」
「子どもの記録を残す場」から「家族全員が参加するイベント」に変化
とは言えスタジオアリスは順調に店舗展開を伸ばしており、競合の写真スタジオも増えている。
「たしかに少子化の影響はあります。しかしそれと反比例するように、写真スタジオ全体の利用率は30年前と比較すると伸びています。その要因としてはオープンな雰囲気もさることながら、『明朗な価格設定』や『自分で写真を選べる』など、かつて写真館を利用するハードルになっていたものを取り去ったスタジオアリスの業態が、写真スタジオ業界のスタンダードになったからではないかと思います」
かつて写真館で子どもの記録を残すのは、お宮参りや七五三といった人生の一大イベントに限っていたが、スタジオアリスでは毎年の「誕生日」や、季節イベントである「ハロウィーン」など、よりコンスタンスに成長の記録を残す需要も多い。
「かつてはお母さまがお一人でお子さまを連れてくることも多かったのですが、近年はお父さまも含めて全員でご来店されるご家族が増えています」
父親の育児参加の意識はこの30年の間に大きく変化し、“イクメン”という言葉も今や死語になりつつある。それとともに、写真スタジオも「子どもの記録を残す場所」から「家族全員で参加するイベント」となったようだ。
「スタジオアリスでは家族写真も『笑顔で撮ってみてはいかがですか?』と提案しています。もちろん昔ながらのかしこまった家族写真もご要望に応じて撮影しますが、家族みんなの笑顔はきっと未来の宝ものになるはず。自然な笑顔を引き出し、一瞬を逃さないのもカメラマンの腕の見せどころです」
家族の歴史に深い関わり、「この業態を絶やしてはいけない」使命感も
「きっかけは2011年3月11日の東日本大震災でした。多くのものを失った中でも、とくに喪失感が大きかったのが『写真だった』という声をたくさんいただいたことから、私たちに何かできることはないかと始まった取り組みです」
対象は2007年以降、(一部2005年以降)にスタジオアリスで撮影・購入した写真で、全国の店舗で受け付けている。2016年の熊本大地震、2018年の西日本豪雨といった大規模災害時にも、問い合わせが多く寄せられたという。
「写真を通してご家族の歴史に深く関わらせていただいているのが、写真スタジオというサービスです。時代によって価値観は変わっても、家族の絆や愛情は普遍的なもの。写真スタジオのあり方も時代に伴う変化はあるでしょうが、この業態を決して絶やしてはいけないという使命感を持っています」
アルバムをめくればいつでも何度でもあのときの思い出に触れられるのが紙の写真。膨大な写真をデータで残すことが簡単な時代になり、紙の写真の価値と思い入れはますます高くなっているようだ。