【世界小人症啓発デー】「見たくないものを見せないで」から「可愛い」に…身長115cmの軟骨無形成症モデルがSNSで実感した“障害者を見る視点の変化”
2023-10-25 eltha
「みんなとは違うけど、私には私なりの可愛さがあるはずだ」
「物心付いた頃には自分が“みんなと違う”ことに気付いていました。そんな私を家族や友だちは『小さくて可愛い』と言ってくれていました。そうした環境もあってか、『みんなとは違うけど、私には私なりの可愛さがあるはずだ』という妙な自信みたいなものがずっとあったんです」
もちろん生活で不便なことはある。
「お洋服は基本的に直さないと着れません。サイズ違いのものをいくつか試着してどう直すか考えて買っています。電車の中で押し潰されたり、人混みでは周りが見えなかったり。脚が短いので、階段は腿上げです。椅子にはよじ登って、足が床に付かない状態で座っていることがほとんどです。お腹に力を入れているので、自然と腹筋がつきました(笑)。
ATMは液晶画面が見えなくて届かないので使えないんですよね。身長が115cmなので、お店のレジカウンターが頭上なところもあります。そういうところでは、支払いや品物の受け取りが難しいですが、店員さんがカウンターから出てトレイや品物を持って来てくれたりするとうれしいですし、ありがたい気持ちです。
あと、棚の上のほうにあるものが届かないので、周りの人や店員さんにお願いして取ってもらうこともあります。そもそも見えないと何があるかわからないので、お願いして取ってもらうことも難しいときもあります。決してやってもらって当然というわけではなくて、こちらから声を掛けてお願いして、やってもらえるとすごくありがたいです」
「この小さな体は私の強みなんだ」気づかせてくれたさまざまな出会い
「子どもの頃から『軟骨無形成症の人のための洋服ブランドを作りたい』と考えていました。その夢の実現に向けて高校卒業後は服飾大学に。ところが手が小さくて大きな布やハサミを扱うのが難しいなど、思うように作業ができないことを痛感し、2年で中退しました」
「大学は辞めましたが、ファッションへの興味がなくなったわけではなく、恩師が代表を務めるユニバーサルファッション協会に所属していました。ユニバーサルファッション協会とは、年齢、体型、障害、性別、国籍などに関わらず誰もが豊かなファッションを楽しめる社会を創ることを目指す団体です。その団体で知り合ったファッションデザイナーさんが私のイラストの個展に足を運んでくださり、モデルに誘ってくださったんです」
モデルとしての初めての仕事は東京コレクションという大舞台だったが、不思議と緊張はなかったという。
生き生きとファッションを楽しむ後藤さんの姿は多くの人を惹きつけ、やがて“小さな体の表現者”を求める映画や舞台などへのキャスティングが相次いでいく。
「監督さんや演出家さんには『君みたいな俳優を探してた』と言われることも多いです。子どもの頃は“みんなと違う”から表舞台に出るのは無理だろうなと思っていましたが、むしろ逆で“みんなと違う”ことが武器になるのがエンタテインメントの世界。もともと自分の体型にコンプレックスがあったわけではないんですが、さらに『この小さな体は私の強みなんだ』ということをたくさんの素敵な出会いを通して気付かせていただきました」
「恐れずに多様な俳優を起用してほしい」エンターテイメント業界への切実な想い
「子どもって素直ですから、思ったことをそのまま口にしてしまいますよね。SNSのコメントも似た感じだと思う。だけど続けていくうちに、コメントも『新しいコーデが見たい』とか『ピンクヘア可愛いですね』というふうにどんどんポジティブな内容に変わっていったんです」
なぜ変わったのか? 後藤さんは「きっと見慣れたんだと思う」とさらりと言う。その上で「恐れずに多様な俳優を起用してもらえたら」とエンタメ界にメッセージする。
「最初は批判もあるかもしれません。ただ私の友人にも学校の先生や会社員の軟骨無形成症の人がたくさんいますし、社会にはいろんな体の人がごく当たり前に存在しています。いろんな体の俳優が"障害枠"ではない1人のエンタテイナーとして起用されることが増えれば、おこがましいですけど、もっとリアルな社会が描けるんじゃないかなと思います。たとえば、日常生活の一場面で主人公の友だちや同僚として登場してみたいです」
海外では軟骨無形成症の俳優が数多く活躍している。アカデミー賞をはじめ“障害枠”とは関係のない評価を得ている俳優も少なくない。
「中でもすごいなと思うのはピーター・ディンクレイジさん。体が小さいことより何より、お芝居に惹きつけられます。私も“日本の小さい俳優といえば後藤仁美”と言われるくらい、演技で認められる存在になりたい。軟骨無形成症の人たちの希望になるのが私の人生の目標です」
(取材・文/児玉澄子)
後藤仁美さん
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